今月の一枚

2010年9月 エンボイ・ワイドアングル 64mmF6.5

前面と背面。

カメラボディを分解したところ。いわゆるボックスカメラの基本型で、実にシンプル。

手元の2台はボディシェルとレンズは同じだが、シャッターユニットが異なっている。いろいろなバリエーションがあったたようだ。

レンズはテーラーホブソン社のエンボイ64mmF6.5ワイドアングル。

作例1 Jeep Wrangler UNLIMITED ISLANDER 1/30秒 F16  引きのない室内でも余裕の画角

作例2 白樺湖  1/125秒 F22

作例3 Galleria 1/125秒 F11

作例4 ジャムのとりはた  1/125秒 F16

作例5 461m 1/250 F11

 

解説

エンボイ・ワイドアングル(Envoy Winde Angle)はイギリスのフォト・デベロップメンツ社(Photo Devevlopments LTD.)が1950年頃に発売した、6x9cmフォーマットで64mmレンズにより画角82度(35mm判換算で25mmレンズ相当)の撮影が可能な広角専用カメラです。120判あるいは620判ロールフィルムを使用して8コマ撮影できます。当時は乾板で1枚撮りすることも可能で、フード付きのピントグラスも用意されていました。

写真でお分かりいただけるように、とてもシンプルな構造のカメラで、巻き上げノブを上に引き上げるとボディーは外殻と内枠に分離できます。外殻にはシャッターユニット、レンズ、フレームファインダーが取り付けられ、内枠にはフィルムを装填します。裏蓋の赤窓でフィルムの位置を定める赤窓方式でフィルムを送ります。いわゆるボックスカメラと構造はほとんど変わりません。全金属製のボディは重量660gですが、6x9cm判のカメラとしては横幅は124mmしかなく、コンパクトで携行しやすい点が大きな魅力です。また操作箇所が少く、撮影がとても迅速にできる点もスナップなどには好適です。

このカメラには、いろいろなメーカーのシャッターユニットが装着されているのを見かけます。最初はイギリスのアジラックス(Agilux)社製のAgifoldユニットだったそうですが、シャッター速度の範囲や信頼性の問題からか他社製ユニットに交換されたものも少なくないようで、私の手元のエンボイはシンクロコンパーともう一台にはプロンターが取り付けられています。このカメラの製造期間中にも変更されたようですが、私の手元のカメラは製造された時代とシャッターユニットの製造年代が合っていないので、後で交換されたのだと思います。レンズ群の後にシャッター羽根が位置するいわゆるビハインドシャッター形式ですので、0番シャッターであればどこのメーカーにでも交換可能なようです。

このカメラに装着されているレンズは、イギリスの名門レンズメーカー、テーラー&テーラー・ホブソン社製のエンボイ(Envoy)64mmF6.5で、6x9cm判では82度の画角があり、1950年当時では驚くべき超広角レンズと言えるものでしょう。4群4枚構成で、前玉の直径はわずか約10mmの小さいレンズです。ただしこのレンズは開放のF6.5ではイメージサークルが小さくて画面周辺までカバーできないため、絞りの刻みはF11からはじまり、F16、F22、F32の4点しかありません。またレンズの焦点位置は固定されていて、被写界深度を考慮して無限遠までピントが合うのはF22以上に絞った場合です。絞り開放位置では6~10mあたりにピントの最良点があるように設定されているようですが、手元の2台のカメラでは微妙に異なっています。このレンズの絞り羽根は8枚で、どの位置でもおおむね円形です。

構図はスポーツファインダー方式になっていて、ワイヤフレームと接眼部を起こしてのぞいて決めます。目の位置が正しければ、ほぼフレームで見える範囲が映りますが、私のように眼鏡をかけていると視点が下がるため多少広く写ります。接眼部にはパララックスの補正機構があります。

撮影結果は超広角カメラとしてなかなか良いと思います。中心部はとても鮮鋭です。周辺部では無限遠のイメージがやや甘くなってきますが、近距離ではピントが合っているので像面湾曲があるようです。これは絞ることで改善します。また条件によって四隅の光量低下が目立つことがあるので、そういう場合にはF22以上に絞るようにしましょう。

シンプルと書きましたが、結局カメラの基本的な機能はこれで十分実現できるということでもあります。優秀なレンズと正確に動作するシャッターと絞り、それにフィルムが正しくレンズの焦点位置にあり、遮光が完全であれば写真はきちんと撮影というごくあたり前のことを、このカメラはよく認識させてくれます。また整備も容易で、費用としても18,000円(税別)という比較的安価に済む点も扱いやすいカメラだと言えるでしょう。

このカメラはなかなか見つけにくいカメラですので、入手については早田カメラ店にご相談ください。また整備についてはどうぞ弊社に遠慮なくご相談ください。

★撮影に使用したフィルムはすべて富士160Sプロ