「コルゲンコーワでおなじみの興和」と書いても、今の若い方にはあまり馴染みがないのではないかと思うのですが、カロのカメラと書くとさらにお分かりにならない方が多いと思います。現在も野鳥観察用のフィルードスコープや双眼鏡、産業用レンズなどで優秀な製品を送り出している興和光学株式会社は、その昔興服産業株式会社興和光器製作所(昭和21年創立)として、カメラやレンズ、プラネタリウムなどの光学製品を製造していました。その興和光器は昭和35年までカロ(Kallo)の名前でいろいろなカメラを製造していましたが、昭和34年9月に発売したカロ140はレンズシャッター式のカメラとして世界ではじめて50mmF1.4という大口径レンズを搭載したことで有名です。レンズシャッター式カメラでは、現在までこれより明るいレンズが装備されたカメラは存在しません。
カロ140はその上レンズ交換式になっていて、プロミナー50mmF1.4の他に広角のプロミナー35mmF2.8と望遠のプロミナー85mmF3.5を使用することができました。連動距離形式ファインダーは一眼式で、ファインダーの中には50mmと85mmのブライトフレームが常時見えていて、視野いっぱいが35mmの画角相当になっています。ブライトフレームはパララックス自動補正で、35mmと50mmは1m、85mmは1.5mが最短撮影距離です。レンズのピント調整は直進ヘリコイド式です。
シャッターはセイコーシャSLV 0番で、1秒~1/500秒とバルブが可能、セルフタイマーも装備しています。セルフタイマーの設定レバーはシンクロのX接点とM接点の切替と兼用です。シャッター速度環と絞り環はレンズマウント基部にあって、両者はLV式で連動するようになっています。したがってレンズ側には絞り環はありません。
フィルム巻き上げは一作動レバー式、フィルムカウンターは順算式で自動復元と、当時の高級レンズシャッターカメラとして、スペックは十分なものがあります。
機構上大変ユニークなのは、巻き戻しクランクが底面にあることです。この時代はパトローネ下側の軸の中には、巻き戻しに使うための部材がありませんでした。軸に部材が備わるのはライカM5が下側で巻き戻すようになってからですので、まだ相当先のことです。したがってカロ140はパトローネの軸を3本の爪ではさんで回す機構を備えています。それだけではフィルムを巻き戻す力が足りませんので、巻き戻し用のスプロケットギアを別に備えています。非常に凝った機構ですが、ここが故障しているとフィルム巻き戻しができないため、入手される際にはフィルムの走行テストと巻き戻しテストを行うようにしましょう。巻き戻しクランクは、巻き戻しボタンを押すと飛び出してきます。
さて実際に撮影に使用してみますと、大柄ですが安定感のあるボディで、確実に写真を撮れるカメラであることがわかります。撮影結果は作例のとおり、標準レンズも望遠レンズも大変シャープですが、望遠レンズは絞っても四隅がやや暗くなります。
「カロ」のネーミングはギリシャ語の美しいを意味する「カロス」が由来とのことですが、昭和35年に会社名を変更するのにともなって、カメラ名もコーワに統一することとなり、カロ140もコーワ140に改称したが中身は同じです。コーワ140はカロ140のボディにコーワのネームプレートを貼り付けてあるだけです。
弊社ではカロ140とコーワ140、およびその交換レンズを含め、カロやコーワのレンズシャッターカメラの分解整備を行っております。どうぞ遠慮なくご相談ください。
★フィルムはフジ業務用フィルム100