ちょうど2年前「今月の一枚」で隅田川の桜を撮影したのは、ローライフレックス2.8Fでした。今回はローライフレックス3.5Fにローライ・ムターX0.7を併用して、広角レンズの撮影を楽しみました。 2年前に二眼レフカメラの人気がかつてないほど高い、と書いたのですが、現在もその状況は変わらないようです。相変わらず弊社への二眼レフカメラの修理依頼は多い状況が続いています。また早田カメラ店ではローライフレックス2.8系の品薄が続いていますし、弊社の委託コーナーは状態の良い品がとても安いことから、ローライフレックスの委託品は棚からすぐに姿を消してしまいます。
さてローライ・ムターについて簡単にご説明しておきましょう。ムターはローライフレックス2.8F、3.5Fの時代に西独カール・ツァイス社が製造した、フロント・コンバージョンレンズです。2種類あって焦点距離を約0.7倍にする広角ムターと、約0.5倍にする望遠ムターがありました。今回は3.5Fに装着していますがこの場合には54mmになるそうで、ワイドアングル・ローライフレックスのディスタゴン55mmF4レンズとほぼ同じ焦点距離となります。なお2.8Fに装着した場合には約57mmです。
フロント・コンバージョンレンズは、ビデオカメラの世界ではよく使われるようですが、スチルカメラの世界では一般的とは言い難いようです。それは過去の例では性能に問題があるものが多かったからではないでしょうか?望遠用はまだしも広角用は周辺部のピントが甘かったり、歪曲収差が強かったり、周辺光量低下がひどかったりと、なかなか難しいもののようです。最近ではニコンがDXフォーマット用標準ズームAF-S18-55mmF3.5-4.5Gシリーズ用に、広角端を35mm判換算で28mmから20mm相当に広げるコンバージョンレンズをニコン・ダイレクトショップ限定で発売していて、周辺までシャープに写るその性能の高さに感心しましたが、それでも歪曲収差がかなり大きいあたりこうしたコンバージョンレンズの限界をやはり感じるものであります。
しかしこのローライ・ムター0.7倍は、作例でおわかりいただけるように、驚くべき高性能ではないでしょうか。そのコントラストの高い鮮明な描写は、とてもコンバージョンレンズのものとは思えません。また歪曲収差もほとんど目立たないレベルです。空などを写すと四隅の光量低下が残りますが、デジタル処理で消すことが可能です。
私はさすがに標準とワイド2台のローライを持って行くのはその重量やかさを考えるとためらわざるを得ないのですが、このムターなら実に気軽に携帯でき、望遠用と広角用を一緒に持ってでかけるのもまったく苦になりません。使用の際には簡単に装着できますし、長年愛用していて撮影結果の確実さにも信頼を置けるもので、ローライを使う上では必須のアクセサリーだと思っています。
ローライ・ムターを初めて使用する方への注意として、撮影時には絞りはF5.6以上に絞らなければなりません。F5.6よりも絞りをあけるととたんに描写性能が劣化します(取扱説明書に明記されています)。また露出は1/2段多くかけるようにします。さらに標準で付属しているフードは、必ず併用します。これによって有害なフレアやゴーストの発生を効果的に防止できます。フードは視野側のレンズに被るように見えますが、光軸に平行となるためファインダー視野を遮ることはありません。
購入する場合の注意点としては、ローライフレックス2.8F用と3.5F用で当然取り付け部が異なりますので、必ず確認してください。マウント取り付け部にRⅡ用とRⅢ用と刻印されています。またRⅠ用のアダプターリングもあるそうですが、カメラと現物合わせした ほうがよいでしょう。またレンズの状態を確認すると同時に、付属のフードも確認してください。これがないと撮影時にフレアが生じるなどの問題が起こることがあります。さらに携帯用の革ケースがあるほうがより良いでしょう。
このローライ・ムターは、発売当時の価格がローライフレックス3.5E2や2.8E2よりわずかに安いという程度に高価であったため、あまり売れなかったそうです。このため現在でも見つけにくいアイテムで、価格も並品のローライフレックス3.5F程度はします。 それからローライフレックス用の望遠フロントコンバージョンレンズには、ムター1.5倍のほうかに、2倍のデュオナール(Duonar)や4倍のテレ・マグナー(Tele Magnar)などの単レンズタイプのものも存在します。これらも比較的高価なアイテムとなっています。
弊社ではこうしたコンバージョンレンズのメンテナンスも可能です。どうぞ遠慮なくご相談ください。