今月ご紹介するのは第二次世界大戦前ドイツの有力なカメラメーカーのひとつだった、バイエル(Kamera-Fabrik Woldermar Beier)社製の6x9cm判のスプリングカメラ、リファクス(Rifax)の6x9cm判です。バイエル社は戦前多数の蛇腹折りたたみ式カメラを製造していましたが、リファックスはセミ判(6×4.5cm判)、6x6cm判、6x9cm判の異なるフォーマットでさらに距離計を備えた上位モデルあるという主力カメラ群でした。
バイエル社は1923年にドイツの工業都市フライタール(Fretal)に設立されました。1930年頃に登場した35mm判カメラのバイラ(Beira)2型は、望遠鏡式の特殊なピント合わせ用ファインダーを搭載していて、その特異な外観デザインもあいまってクラシックカメラファンには人気が高いカメラです。そのほかに中判一眼レフのバイエルフレックス(Beier-Flex)や、6x9cm判蛇腹折り畳み式のバイラックス(Beirax)など様々なカメラを製造していました。
戦後は東独に編入され、1958年にバイレッテ(Beirette)という35mm判の小型カメラを発売しました。機能はシンプルですがかわいらしい姿に人気があります。その後バイレッテはシリーズ化されて様々なモデルが登場しますが、一貫して目測式ピント合わせの入門大衆機でした。1972年には社名がフライタール人民公社(VEB Kamerafabrik Freital)に変更され、1980年にはペンタコン人民公社(VEB Pentacon)の、そして1986年以降はカール・ツァイス・イエナ人民公社(VEB Carl Zeiss Jena)の一部門としてドイツ統合まで活動を続けました。
リファックスはとても真面目に作られた基本性能に優れたカメラです。写真のモデルは距離計のない目測式のベーシックなカメラですが、各部の構造はしっかりしていて蛇腹の折りたたみや各部の動作はとてもスムーズです。普及機にもかかわらずピントあわせは前板部全体を前後に移動させる方式を採用していて、前玉回転式のカメラに比べてレンズ性能を最大に発揮できるようになっていました。リファックスは1936年頃に登場した前期型と1937年以降の後期型があり、写真のモデルは前期型でボディの端が丸い形状です。後期型は角形に変わります。
リファックスはシャッターとレンズの組み合わせが多種あり、シャッターユニットとしてはコンパー、コンパー・ラビッド、プロンター、プロンター2型が採用されました。搭載したレンズとしてはアクチナー(Actinar)105mmF4.5、トリナー(Trinar)105mmF4.5、トリナー105mmF3.8、クセナー(Xenar)105mmF4.5などが知られています。
今回ご紹介したモデルはそれらの中で最も高価に取引されている、ライカ(Leica)で知られたエルンスト・ライツ(Ernst Leitz)社が供給したエルマー(Elmar)105mmF4.5付きです。ライカのエルマーレンズ群はいずれも素晴らしい卓越した描写性能を誇りますが、この中判カメラ用にライツ社が供給したエルマー105mmF4.5レンズも、作例をご覧いただければわかるように実に見事な描写です。シャッターユニットは当時世界最高のコンパー・ラピッドですし、前板部スライド式のピント合わせ機構によりエルマー105mmF4.5レンズのレンズ性能を最大に発揮できる点も大きな魅力です。6x9cm判カメラのコレクターの方ばかりでなく、写真作品を製作される方にもとても魅力的なカメラであると言えるでしょう。
★作例写真 フィルムはフジNS160