今からおよそ20年ほど前、1980年代の初頭に、それまで一眼レフカメラ専業メーカーであった旭光学工業と日本光学工業が、いずれもコンパクトカメラに参入して世間を驚かせました。当時じり貧になっていた一眼レフカメラに対し、まだ需要の伸びが見込めたコンパクトカメラの市場は魅力的だったのでしょう。
日本光学が世に送ったのは、「ピカイチ」という愛称をつけられたL35AFとデート機構内蔵のL35ADで、1983年のことでした。このカメラは外観はオーソドックスなもので、赤外線アクティブ式AFで0.8m~無限遠までピントが自動で合います。この時代のカメラはファインダー下部に距離指標があるものが多く、AFがきちんと動作したか確認できるようになっているのは、その後のAFランプが点灯するだけの合焦表示にくらべ、はるかに確実で安心でした。実際このカメラでは、AF表示がはずれていないことを確認してシャッターボタンを押せば、100%ピントが合った写真が撮れます。
また世界で初めて暗いところでのストロボの自動ポップアップ&発光機能が内蔵され、これがピカイチの名前の由来となったようです。そのほか自動巻き上げ、自動巻き戻し、+2EVの露出補正など、当時のコンパクトカメラとして一通りの機能を備えていました。
それだけではそういうカメラがあったというだけで終わってしまうのですが、特筆すべきはそのレンズで、名前こそニコン・レンズというチープな名称ですが、当時のコンパクトカメラで一般的だった38mmではなく35mmという本格的な広角の焦点距離とし、かつ明るさはF2.8とそこそこなのにレンズ構成は4群5枚とゴージャスで、そのシャープな写りは当時のカメラ雑誌のテストでも大好評でした。実際、ピカイチL35AFで撮影した写真は非常に良く写っていて、これだけ写れば重い一眼レフをわざわざ持ち歩く必要はないと思ったものです。
さてこのピカイチが発売されて20年以上が過ぎ、保管状態や使用環境が悪かったL35AFは故障しているものが見受けられるようになっています。私の手元の数台のL35AFは、いずれも快調に動作していますが、電池室からの液漏れが原因で故障してしまったL35AFをいただいたので、今回宮崎光学に依頼してライカマウントに改造してもらいました。すでにL35AF自体はニコンでは修理不能ですし、弊社でも修理できません。幸いレンズの状態がよかったので、この写りの良いレンズを復活させ、ずっと使い続けることにいたしました。ライカMマウントの改造費用は、67,000円(税別)です。専用のフードとフードキャップが付属します。
改造されたレンズは、まさに「パンケーキ」と呼ぶべき超薄型となり、専用フードをつけても携帯性は抜群です。ドイツ製の真円絞りを新たに内蔵したので、ボケもなめらかになったように感じます。絞りの操作は少しやりにくいのですが、距離計に連動するピントあわせは非常にスムーズで、実用性に問題はありません。ご覧の通り非常にすばらしい写りが確実に得られるため、今では常用レンズになってしまいました。ミラーレスのデジタルカメラでの使用も問題ありません。
改造についてのご相談は随時承っておりますが、納期については宮崎光学の繁忙度よって変わりますので、事前にご確認ください。