イギリスのパーネット・エンサイン社は、第二次世界大戦前からいくつもの蛇腹折りたたみ式スプリングカメラを製造してきた、イギリスを代表するカメラメーカーです。その最高級機が、今回ご紹介するオートレンジ820です。1957年頃登場しました。
このカメラはピント調整の方式が変わっており、レンズやシャッターを含めた前板部だけでなく、それを支える前蓋部全体が前後するという、他に例をみない(エンサイン社のカメラの中でも)方法を採用しています。レンズ性能を無限遠でも近距離でも安定して発揮させるためには、レンズ全体を前後させるほうが良いのですが、スプリングカメラの最高峰とされるスーパーイコンタでも前群回転式となっていることを考えると、このカメラの性能のこだわりには感心します。
そしてこのカメラのレンズには、イギリスの名門レンズメーカーであるロス社のエクスプレスが採用されています。その非常に鮮鋭かつ周辺部まで均質な描写は、カール・ツァイス社のテッサーに比べてまったくひけをとることはありません。おもしろいことに、レンズ名の脇には色消しを意味するという青・黄色・赤の3つの色点が打たれています。実際このレンズはカラーでも色のにじみがまったくなく、すっきりとした描写です。本当にすばらしいレンズです。
カメラとしての使い勝手はごくふつうですし、イギリス製のエプシロン・シャッターが耐久性や性能にやや問題があるのですが、スプリングカメラのコレクターなら手元に1台必要なカメラと言えるでしょう。ただし、たいへん数が少なく、早田カメラ店でもお客様からのご依頼で苦労して探すという状況です。 メンテナンスについては、オーバーホール42,000円(消費税別)です。どうぞ遠慮なくお問い合わせください。