今月の一枚

2008年6月 ビオゴン(初期型)35mmF2.8

レンズ単体の写真。

レンズ後部。大きく突出している。

レンズ後群再研磨前の様子。中心部に傷がある。

整備中の様子。研磨によるピントのズレを調整。

作例1 のれん ニコンSP F5.6 1/125 フジSP100

作例2 雷門  ニコンSP F8 1/250 フジSP100

作例3 ペチュニア ニコンSP F11 1/250 フジSP100

作例4 桃園  ニコンSP F5.6 1/250 フジSP100

 

解説

戦前世界最大のカメラメーカーであったツァイス・イコン社は、35mm判レンズ交換式連動距離計内蔵カメラの最高峰としての名声を確立しつつあったライカ(エルンスト・ライツ社)に対抗するため、1932年に性能面でライカを越えることを目標とした最高級カメラ、コンタックスI型を世に出します。 特にカール・ツァイス社の威信をかけたコンタックス用交換レンズ群は、明るさなどの性能面でライツ社のレンズ群を凌駕することを目標としただけに、非常に優れた性能を持つレンズばかりです。

その中で広角35mmを担当するレンズがこのビオゴン35mmF2.8で、1936年に登場しました。4群6枚構成のこの名レンズの設計者は有名なベルテレです。 当時ライバルのライカ用35mmレンズは3群4枚構成のエルマー35mmF3.5で、これはこれでよく写るレンズだと思いますが、ビオゴンは半絞り明るいF2.8とすることで戦前35mm用広角レンズの頂点に位置することとなったのです。

なおコンタックス用の35mmは、この後オルソメター35mmF4.5(1937)、ヘラー35mmF3.5(1938)と立て続けに登場します。性能は抜群でも高価なビオゴンより安価なレンズを商業政策上必要としたのでしょう。 戦後は再生産されたビオゴン35mmに続いて、新設計のビオゴン35mmF2.8やプラナー35mmF3.5、東独のカール・ツァイス・イエナ社からはビオメタール35mmF2.8といった新レンズがコンタックス用として次々登場しますが、コンタックスカメラの生産終了とともにこれらの名レンズも姿を消したのでした。

戦前のビオゴン35mmF2.8レンズは後群レンズが大きく突出しているため、戦前のコンタックスⅠ、Ⅱ、Ⅲ型とニコンSシリーズカメラ、ロシアのコンタックスコピーのキエフシリーズにしか装着できません。戦後のコンタックスⅡa、Ⅲa型と、コシナ・フォクトレンダー製のベッサR2CとR2Sには装着不能ですので、ご注意ください。

これもよく知られていますが、ロシア製のジュピター12(Jupiter-12)35mmF2.8レンズは、この初期型ビオゴン35mmF2.8レンズを模倣したもので、オリジナルレンズ同様写りがとても良いことで知られています。コンタックスマウント以外にライカマウントのものがあるため、活用範囲が広いレンズです。

今回ご紹介したレンズは、後群レンズ中央に傷があり写真ににじみがでるため再研磨を行い、その後さらに描写を改善するため最前部のレンズの傷も再研磨修理したものです。修理後はご覧のようにビオゴン本来の性能を取り戻しています。コンタックス用レンズの修理についてはどうぞ遠慮なくご相談ください。