今回はドイツのメントール・カメラファブリーク・ゴルツ&ブロイトマン(Mentor-Kamerafabrik Goltz&Breutmann)製のたいへんユニークな二眼レフカメラ、メントレットをご紹介いたします。 この会社のルーツは、1898年フーゴ・ブロイトマン(Hugo Breutmann)によってベルリン(Berlin)に設立されました。翌年パートナーとしてフランツ・ゴルツ(Franz Goltz)が加わり、社名がゴルツ&ブロイトマンOHGとなりましたが、1905年にゴルツは健康上の理由で辞めてしまいました。代わりにグスタフ・アドルフ・ハインリッヒ(Gustav Adolf Heirich)という人物が新しいパートナーとして加わっています。 カメラ製造は当時流行していたフォーカルプレーンシャッター式木製一眼レフカメラに注力し、安定した品質と性能で成功を収めました。しかしカメラ製造会社の多くがドレンデン(Dresden)に集中していたことから、1906年にドレスデンに移転しています。
自社製品に対する継続的な機能改良と品質の向上により、製品の商標名であった「メントール(Mentor)」は世界的に有名となり、事実上企業名と同等に扱われるようになったことから、1921年に社名をメントール・カメラファブリーク・ゴルツ&ブロイトマンに変更しました。その後も様々な大型木製一眼レフカメラを開発し、世界恐慌の影響もありましたが、会社はおおむね順調に発展していきました。 ところが1935年にハイリッヒが亡くなると業績は悪化し、1937年についに破産してしまったのです。その後もカメラ製造は続けられましたが規模は縮小してしまいました。戦時中の1944年にK.Wの機械工だったルドルフ・グロッサー(Rudolf Grosser)がこの企業を買い受け、メントールカメラの製造を引き継ぎました。しかしドレスデン大空襲で、壊滅的被害を受けてしまったのです。
戦後グロッサーはメントール社をあきらめることなく復興に努力し、1949年頃に戦後初のメントールカメラの発売にこぎつけました。その後十数名の規模で事業を継続、東独のドレスデンにありながらVEB化されることもなく、スタジオ用カメラやパノラマカメラなどの大型カメラの製造を続けました。VEBペンタコンが中判カメラ以下のサイズのカメラを大量に製造したのに対し、メントールは東独唯一の大判カメラ製造メーカーという位置づけとして存在を許されていたのです。しかし1968年にグロッサーが亡くなると、1972年には国有化されることなり、その後1980年にVEBペンタコンの製造部門に組み込まれて80年に渡る歴史に終止符を打ったのでした。
木製大型カメラを得意としていたメントールですが、1936年頃に全金属製の二眼レフカメラを初めて世に送り出しました。それが今回ご紹介するメントレットです。当時はフランケ&ハイデッケ社のローライフレックスによって、全金属製の二眼レフカメラがカメラの主流の一つとして認められつつあった時代で、ドイツの有力カメラメーカーも各社独自の二眼レフカメラを開発して市場に送り込んだのでした。
メントレットは数ある二眼レフカメラの中でも、機構的に珍しい特徴を持っています。一つはローライフレックスを初めてとして大部分の二眼レフカメラがレンズシャッターを採用しているのに対して、このメントレットはフォーカルプレーン式シャッター機構を内蔵しています。私の推測ですが、メントール社は大型一眼レフカメラを主力機種としていたのでフォーカルプレーン式シャッター機構を得意としており、自社開発が可能であったことと、当時のレンズシャッターが最高速1/250~1/400秒であったのに対して容易に1/500~1/1000秒前後の高速シャッターを実現できたという性能上の優位性のためではないでしょうか。実際メントレットのシャッター最高速は1/600秒です。
もうひとつおもしろい点は、ビューレンズに撮影レンズと同期する絞り機構をいれたことです。これによってファインダーで絞りによる被写界深度の変化を見ることができるのですが、ある程度以上に絞り込んでしまうとスクリーンが暗くなってしまうため、構図を確認することが困難になってしまうという問題が生じてしまいます。この問題を解決するため、ボディの左側面に光学式のファインダーを組み込んであり、必要なときにバネで飛び出して観察できるようになっています。ビューレンズに絞りを入れた二眼レフカメラは、世界的に見ても数がたいへん少ないのですが、このように使用上の難点があったためだと思います。
フィルム搬送は自動コマ送りを実現していて、シャッターチャージとフィルム巻き上げがクランク操作で同時にでき、さらにこのクランクの操作でシャッターレリースも兼ねているというのも、ユニークな機構だと言えるでしょう。
実際に使用してみると迅速な撮影が可能な、とても使いやすいカメラだと思います。なにより撮影結果が素晴らしいことに驚きます。撮影レンズはドイツの名門レンズメーカー、メーヤー社の名玉トリオプラン75mmF2.9です。トリプレットタイプのレンズですが、トリオプランはその描写性能の良さで昔からたいへん有名なレンズです。今回の作例でもピントはシャープですし、ノンコートのレンズなのに発色もたいへん鮮やかです。実によく写ると言って良いでしょう。
メントレットは販売数がたいへん少なかったそうで、現在では珍品の部類に入るカメラです。弊社では通常のオーバーホールからシャッター幕の交換などの重修理まで対応可能です。どうぞ遠慮なくご相談ください。早田カメラ店では整備済みのメントレットを保証付きで販売しております。