最近ライカの修理についてのご依頼が増えています。クラシックカメラが大きなブームであった時代に比べて、ライカも中古市場での価格が下がり、たいへん入手しやすくなっているためでしょうか。実際私がクラシックカメラに興味を持ち始めた、20年ほど前の相場よりも安くなっているように思います。そのような状況の中で、バルナックライカを使ってみたいというご相談も良くお受けするようなってきました。
人気が高いモデルは戦前の黒塗装されたライカのようです。今回は私の愛機のひとつであるライカDⅢをふたたび取り上げてみます。 ライカDⅢはフォーカルプレーン式シャッターを備えたライカに、はじめてスロースピード機構を搭載したモデルです。ライカに初めて連動距離計を内蔵したDⅡ型の改良型として1933年に登場しました。このライカDⅢという呼び方は日本だけのもので、ライツ社ではⅢ型と呼んでいましたし、アメリカではF型と呼ばれています。
スロースピード機構をDⅡ型と変わらないボディサイズの中に組み込むため、スローガバナーは底部に設置され、ボディ上部の速度制御機構とスローガバナーとは長い連結棒で連繋されています。この連結棒の角度をボディ前面に配置されたスロースピードダイアルで変えることで、スローガバナーの作動時間を変更するという巧妙な仕組みになっています。設定可能な低速はT(タイム)、1,1/2,1/4,1/8,1/20です。ただしスロースピードを使う時には、高速側のシャッターダイアルを必ず1/20秒に設定しなければなりません。 このスロースピード機構は低速制御の標準的な構造となり、世界中の様々なライカ式のフォーカルプレーン式シャッター機構を採用したカメラ(一眼レフまでも)が真似をしました。ライカDⅢのシャッター機構は精度と信頼性、製造や調整のし易さといった点で当時世界でもっとも優れたものであったと言えるでしょう。
DⅢは距離計の倍率が1.5倍に大きくなり、さらに視度調整機構が内蔵されました。またボディに吊り環が備わり、ホディに直接ストラップを取り付けることができます。DⅡまでは革ケースに入れないと、肩や首からさげることができませんでした。私はスローシャッターはなくてもあまり困らないので、シンクロが備わったライカⅡFがもう一台のバルナックライカの愛用機なのですが、DⅡではなくてDⅢを使うのはこの2つの改良点によるところが大きいと言えます。
ライカDⅢは当時大変好評だったためでしょう、約76,000台とかなり多い台数が製造されています。ライカDにⅢはA型からの伝統的であるブラックエナメル仕上げと、DⅡ時代に始まった当時斬新だったクロームメッキ仕上げのモデルがあります。どちらを選ぶかはもちろん好みの問題ですが、ブラックエナメル仕上げのモデルには金属部のニッケルメッキの風合いとも合うため、装着するレンズもニッケルメッキ仕上げのレンズが似合うと思います。特に手元のライカDⅢに最初から組み合わされていたニッケルエルマー50mmF3.5レンズの描写には、現像があがってくるたびになんでこんなによく写るのかと本当に感心しています。
ライカとそのレンズの整備については、弊社にはたいへん多くの実績がございます。どうぞ遠慮なくご相談ください。最後にライカDIIとライカIIIFのシャッター音の違いがわかる動画を掲載しておきます。