今お客様からお預かりしている委託品の中に、ホロゴン15mmF8レンズのセットがあります。私も手にするのはおよそ10年ぶりで、許可をいただいて久々に撮影してみましたので、ご紹介いたします。
ライカM型用交換レンズとして、当時最も画角の広いホロゴン15mmF8は1973年に登場しました。このレンズはツァイス・イコン社の超高級一眼レフカメラシリーズ、コンタレックスのボディをベースにした超広角専用機ホロゴン・ウルトラワイド(1968)に装着されていたレンズをライカMマウント用にしたもので、もちろん製造はカール・ツァイス社です。戦前から戦後にかけてのライカとコンタックスがライバルであった時代には考えられなかった、カール・ツァイス社のレンズがライカ用として供給されるようになった背景には、ツァイス・イコン社が1972年にカメラ製造から全面撤退したことも関係しているのかもしれません。
ホロゴンは他に例を見ない3群3枚の光学系で、絞りはなくF8固定です。そのままでは周辺部の光量が低下するので、これを補正するセンターフィルターが付属します。センターフィルターを使用するとF16相当になります。距離計には連動せず目測でピント合わせを行いますが、そもそも非常に深い被写界深度を持つため使用上の問題は感じられません。最短撮影距離は0.2mてす。専用の広角ファインダーが付属していて、視野の中に内蔵された水準器が見えるようになっています。このホロゴンの登場で、当時ライカMシステムは15mmから800mmまでの広い範囲をカバーし、当時隆盛を極めつつあった一眼レフカメラのシステムに十分対抗できるものでした。
さて今回はライカM2に装着してみましたが、レンズが超小型・軽量で、絞りやピントの操作がほとんど不要なのでたいへん軽快な撮影が楽しめました。出来上がった写真は、四隅まで驚くほどシャープで、まったく歪みを感じることがなく、センターフィルターを使用すると周辺減光も完全に補正されてしまうため、画角110度に達する超広角レンズにもかかわらず、24mmくらいのきわめて良質な広角レンズで撮影したように見えてしまいます。 むしろセンターフィルターをはずして撮影したときの方が、周辺光量の低下が超広角感を生み出すので良い場合もあるでしょう。水面や木肌、建物の壁の質感の再現が異常なまでにリアルで、このホロゴンレンズがとんでもない描写能力をもったたぐいまれな傑作レンズであることを実感できます。コレクターの棚に飾られてしまうのはもったいないと思うのは、私だけでしょうか。
なおこのレンズは構造が特殊なことから、メンテナンスは困難です。また前後のレンズの曲率が極端に大きく、傷をつけやすいため、取り扱いには十分な注意が必要です。入手時には試写して、今回のレンズのように素晴らしい写りであることを確認しないと、万が一ピントがあわないなどの問題があっても対処不能になる可能性が高いと思われます。