今月の一枚

2013年4月 ニコンM ニッコール50mmF1.5

ニコンM ニッコール50mmF1.5 

上部から。シリアル番号前のMの刻印がよくわかる。

上部から。シリアル番号前のMの刻印がよくわかる。

画面フォーマットは24x34mmと長辺が少し短い。

画面フォーマットは24x34mmと長辺が少し短い。

ニッコールS50mmF1.5レンズ。

ニッコールS50mmF1.5レンズ。

ニコンⅠ型。

ニコンⅠ型。

ニコンⅠ型の分解整備。

ニコンⅠ型の分解整備。

作例1 F11 1/250

作例1 F11 1/250

作例2 F5.6 1/125

作例2 F5.6 1/125

作例3 F8 1/250

作例3 F8 1/250

作例4 F1.5 1/500

作例4 F1.5 1/500

作例5 F11 1/250

作例5 F11 1/250

解説

数ヶ月前から委託品としてたいへん美麗なニコンⅠ型とニコンM型をお預かりしておりました。ニコンⅠ型は、光学会社として発展してきた日本光学工業株式会社が初めて造ったカメラとしてあまりに有名で、各所で詳しい解説がなされています。ニコンM型はニコンⅠ型の撮影サイズが24x32mmと長辺が短く、このためいろいろ不都合があったので24x34mmに拡大し、フィルム送りはライカ判と同じに改良したカメラです。製造番号の前にMのマークが刻印されていて、その後のニコンS型とはシンクロ接点が装備されていないことで区別されています(Mの刻印があるがシンクロ接点がある過渡期のモデルはMS型と呼称されています)。Ⅰ型もM型も製造台数が少なく、現在は稀少なカメラとしてよく知られており、世界的に散らばるニコンカメラのコレクター垂涎のアイテムとなって久しいものです。

このニコンMの時代のレンズとして有名なものが、Nikkor-S 50mmF1.5レンズです。実は戦前から試作が行われ、1939年1月に試作が完成したというニッコール50mmF1.5レンズは、戦後設計変更が行われたそうです。そして1950年当時世界でもっとも明るいレンズであったコンタックスおよびコンタフレックス用ゾナー50mmF1.5レンズ、ライツのライカ用にシュナイダー社が供給したクセノン(Xenon)50mmF1.5と、その後継のズマリット(Summarit)50mmF1.5に並ぶレンズとして、ニコン用及びライカマウント用のF1.5レンズが1949年に登場したのでした。このレンズは、ゾナー50mmF1.5をお手本とした3群7枚構成のゾナータイプで、レンズ名には7枚構成を示すSの文字が入っています。

真鍮鏡胴にクローム仕上げで、重量は約187gと手にすると重いレンズです。しかしフィルター径は40.5mmとニッコール50mmF2レンズと同じで、外観は比較的コンパクトに見えます。その後登場したニッコールS50mmF1.4レンズは、フィルター経が43mmなので一回り大きくなっています。なおこの50mmF1.5レンズは最小絞りがF11までしかありません。

このレンズは主にM型に装着されているそうで、中古カメラ店店頭でレンズ単体で見かけることはまれなようです。そもそも製造本数は800本程度だそうで、文献によってライカマウント用が300本とされたり、反対にライカマウント用がニコン用より多いと書かれていたりします。ともかく非常に少なく滅多に見かけにないレンズであるのは事実ですので、このため中古市場での価格も世界的にきわめて高価で、ライカマウント用、ニコン用とも30万円を超えるプライスタグがつくことが普通です。

今回私は初めてこのレンズで撮影する機会を得ることができました。作例をご覧いただければわかるとおり、期待通りたいへん良く写るレンズです。このレンズはライフ誌のカメラマン、ダンカン氏によって朝鮮戦争の取材に使われ、その素晴らしい性能による写真が、世界にニッコールレンズを認めさせる端緒となったものです。歴史的なレンズとしての価値も高いものなのです。

さて委託でお預かりしていたニコンⅠ型は沈胴のニッコール50mmF2とケースが付属して250万円、ニコンM型はこの50mmF1.5レンズとケースが付属して60万円、いずれもたいへん美麗な状態でした。つい先日お買い上げいただきましたが、さっそく写真撮影に常用するということで、ニコンⅠ型についてはシャッターまわりの動作に少し問題があったので、弊社でオーバーホールをお受けし、早田が処置いたしました。もちろんオリジナルの状態を損ねることがないよう、細心の注意を払って処置させていただきました。

オールドニコンおよびニッコールレンズのメンテナンスは、どうぞ弊社にご相談ください。

★撮影フィルムはすべてコダック ウルトラ400