今月もお客様からいただいてしまったカメラを、記念としてご紹介したいと思います。ダースト・オートマティカです。
イタリアのダースト社(Durst Phototechnik S.p.A.)は、1936年にダースト兄弟(Julius & Gilbert Durst)によって設立された写真機器メーカーです。世界的に有名だったのはフィルム時代の高性能引き伸ばし器で、日本では旭光学工業株式会社が代理店となり、旭ダーストのブランド名で国内販売していたことは年配の写真愛好家の方なら、特にご自分でファインプリントを製作されていた方でしたら、良くご存じのことでしょう。ダースト社は現在は”Durst. The industrial inkjet specialist”という会社の宣伝文句でわかるように、産業用インクジェットプリンターの有力メーカーとして世界的に活躍しています(http://www.durst.it)。
ダースト社は第二次世界大前後に、少数のスチルカメラを製造したことがあります。35mm判縦型スタイルで5色が知られるデュカ(Duca,1946)や、6x6cm判のダースト66(Durst66,1956)などが知られていますが、今回ご紹介するダースト・オートマティカは、1956年に登場した35mm判コンパクトカメラで、35mm判カメラとしては世界で唯一の空気流量制御方式による絞り優先AE方式を実現した、たいへんユニークなカメラです。過去のすべてのカメラの中で、この空気流量制御方式を採用したカメラは、ほかにドイツのアグファ社が1956年に発売したオートマチック66(Automatic 66)があるだけです。オートマチック66は6x6cm判蛇腹折り畳み式カメラで唯一の自動露出を実現したカメラですが、このオートマティカともども世界的な珍機種と言えるでしょう。
オートマティカ自体は、ピント合わせは目測式の簡易なカメラです。シャッターはドイツのプロンターSVSを採用していて、マニュアル制御では1秒~1/300秒とバルブを使用できます。オート機構はセレン光電池式メーターに連動する蓋が、空気が流れる穴を塞ぐことで抵抗を生み、それによってシャッター速度を変えるという方式です。注射器の先を指で塞ぐとシリンダーを押せなくなり、穴の大きさを変えればシリンダを押し込む時間が変化するという説明でお分かりいただけるでしょうか。自動露出は絞りを設定するとシャッターが変わる絞り優先式AEとなっています。
搭載されているレンズは先月のレチナと同じく、ドイツの名門レンズメーカーであるシュナイダー社製のラジオナー45mmF2.8で、レンズ構成は3群3枚のトリプレット型です。作例を見ていただくとわかるように、シュナイダーらしいシャープなレンズです。
外観はあまり特徴のない平凡なスタイルのカメラですが、巻き上げるときに巻き上げレバーが上に一段上がる動作がおもしろいです。イタリアカメラのコレクションには欠かせないカメラだと思います。なお早田カメラ店でも、まれに販売しています。