エルンスト・ライツ社がライカカメラ用に最初のF2級大口径レンズを供給したのは、ライカM3が登場してから4年後の1958年のことです。最初のズミクロン35mmF2レンズは6群8枚構成で、そのためこのレンズは俗に8枚玉と呼ばれています。その高密度な描写が今でも超人気でしょう。今回ライカM2につけて久々に地元浅草界隈を撮影してみましたが、現像の出来上がりをみて、おもわずこれだ!!といってしまいました(笑)
このレンズは小ぶりな外観のレンズですが、細部にいたるまで造りがすばらしく、ヘリコイドの滑らかな動作や無限遠ストッパーの小気味よい作動感など感激ものです。ライツ社全盛期に作られたレンズだけあって、そのすべてが最高レベルのものなのでしょう。
このレンズは1952年に創業を開始したカナダ・ライツ社で設計・製造されたレンズであることは、よく知られています。これ以後カナダ・ライツ社は数々の名レンズを世に送り出しました。このズミクロン35mmF2 8枚玉は、後に本社ウェッツラーでも製造されます。ですから、銘板にCANADA、鏡胴にLens Made in Canadaと刻印されたレンズと、銘板にWetzlar、鏡胴にGermanyと刻印されたレンズがあります。またM3で使うことを前提とした眼鏡付きのタイプもありますが、最短撮影距離が65cmで、眼鏡なしのM2用が最短撮影距離70cmであることと違いがあります。なお眼鏡付きレンズはM2やM4などM3以外のライカMボディにも、もちろん普通に使うことができ、その場合には眼鏡でファインダー倍率が変倍されますから、50mm枠が35mmのフレームとして有効に機能します。
1968年まで製造が続けられ、眼鏡のない通常のタイプが約11,000本、眼鏡付きが約9,500本、Lマウント仕様も約600本の少数が製造されています。Mマウントタイプのものには、小ネジで止められているMマウントリングをとりはずすと、Lマウントレンズとして使える便利な構造のものがあって、MLタイプと呼ばれて人気があります。また黒塗装されたモデルが少数製造されていて、これは現在驚くほどの高値で取り引きされています。フィルター径はE39。フードはIROOA/12571。
このレンズですが、時々性能的に?というレンズを目にすることがあります。弊社のお客様からもごく最近も相談をうけたのですが、それは外観は新品のように綺麗なのに、無限遠ではなんとなくもやっとした写りで、最短距離付近ではあきらかにピンボケのレンズだそうです。そうした描写が変なレンズは、あきらかに製造後にどこかでいじられてしまい、性能が劣化してしまっています。直せるかという点については、分解してよく調べてみないと判断できません。単にレンズの組み立て不良なのか、ピント調整用のシム部品の欠品や入れ違いなのか、最悪どこかでレンズを変えられてしまっていることも考えられます。いずれにしてもこのズミクロン35mmF2 8枚玉は、正常であれば作例をご覧いただければわかるように、ライツ社のレンズの中でも特に素晴らしい描写のレンズです。購入時にはよく調べて見る必要があるでしょう。
それと時々眼鏡なしで最短距離が65cmのレンズを見かけます。これは眼鏡付きのレンズから眼鏡をとりはずしたものですが、当然そのままでは距離計とレンズのピントが合いません。きちんとした改造処置を受けているレンズの場合、距離計の連動カムを切り直してあるはずですから、マウントの距離計連動カムの状態を見ればわかります。さらに念のため、試写してみるべきでしょう。なにもされていないレンズも時々市中にみかけますが、そうしたレンズを入手してしまった場合、あとの処置が面倒です。ライブビューが使えるデジカメで使うのであれば、問題にならないかもしれませんが。いずれにしても、こうした問題があることを知っておいた上で、入手するようにしてください。
なおこのレンズのメンテナンスについては、弊社でも多数の実績があります。遠慮なくご相談ください。
フィルムはすべてフジ 業務用フィルム100