今月はお客様のご依頼を受けて、弊社が宮崎MS Optical R&Dと協同して特別に製造したレンズをご紹介いたします。マキナ67用のニッコール80mmF2.8レンズを、ライカMマウントレンズとしたものです。最短撮影距離は1.1mで、M型ライカの距離計に高精度で連動いたします。絞りはドイツ製の14枚羽根真円絞りを組み込んであり、どの絞り位置でもほとんど円形です。このため80mmという焦点距離もあって、前後のボケがたいへん綺麗です。もちろんピント面は非常にシャープ、さすがニッコールです。宮崎の手で1本ずつレンズ性能をテストしていますが、基本的な収差の現れ方はローライフレックス2.8シリーズに搭載されているカール・ツァイス社のプラナー(Planar)80mmF2.8レンズと大変よく似ているそうです。おもしろいレンズができたと思います。なおマキナ67カメラについては、2006年1月の今月の一枚をご参照ください。
ご相談をお受けしたのは2年以上前のことで、プラウベル・マキナ67用とし供給されていたニッコール80mmF2.8レンズのデッドストック品が十数個みつかったので、なんとか使い道がないだろうかということでした。中判6x7cm判をカバーする広いイメージサークルを持つレンズなので、当初は中判のカメラで使えるようなレンズを製作することを検討いたしましたが、鏡胴部品を一から設計して製作するとあまり高額となる上、使用できる中判カメラの選択が難しく、これは断念しました。結局いろいろなフィルムカメラやデジタルカメラで使うことを想定し、ライカMマウントの鏡胴に組み込むことにいたしました。これですとすでに宮崎のところで開発済みの75mmレンズ用鏡胴をベースとして、レンズ先端部を新たに設計することで、レンズを作ることができるからです。
試作が完成したのは昨年の3月でしたが、レンズを組み込んでみるとレンズの曲率が大きくて鏡胴先端からレンズが出てしまったり、絞りユニットからの反射が逆光時に悪影響を及ぼすことがわかったり、やはり図面の上でものが描かれるのと、実際にものができるのとでは、大きな違いがあることがよくわかりました。その後仕事が繁忙を極めている宮崎の手の空いたタイミングで改良を続け、さらに当初の仕様にはなかった絞り値の刻印入れや、専用フードの製作も行い、今月ようやく最初の数本が完成いたしました。
試作レンズも鏡胴部品を入れ替えて完全な形となったので、それで撮影したのが作例写真です。ライカM3で撮影しましたが、細身の鏡胴は非常に扱いやすく、確実なピントが得られて素晴らしい撮影結果を得られました。また最初の1本を頒布させていただいたお客様がソニーα7Rをお持ちでしたので、それで撮影していただきましたが、3600万画素に余裕で対応、大きく拡大したときでも細部の解像感も見事でした。ライカMマウントにして正解だったと思います。
ご予約いただいておりました弊社会員の方には、全数(11本)を製作して納品を完了いたしました。お陰様で手にしたお客様からは大好評で、苦労した甲斐があったと思います。なお本レンズ用に製作した部品は、当初のレンズ個数分だけです。したがいましてマキナ67カメラからレンズを取り外した改造は、宮崎ではお受けいたしておりません。
★撮影フィルムはすべてフジ 業務用フィルム(ISO100)