先日ライカM3にとてもよく似た国産カメラとして有名な、アイレス35ⅢCを入手しました。このカメラはアイレスの35mm判カメラの中で、弊社への修理のご依頼がもっとも多いカメラです。たぶんその端正なデザインに惹かれてコレクションされる方が少なくないからでしょう。
アイレス写真機製作所の最初の35mm判レンズシャッターカメラは、アイレス35で1954年6月に販売が開始されています。上から見ると八角形になっているやや大柄なボディにレンズ、シャッターとファインダーを組み込んだ比較的シンプルな構造のカメラで、ボディ前部に大きなレリーズレバーがあって人目を引くデザインになっています。まだ距離計は内蔵されていませんでした。
2代目のアイレス35Ⅱは同じ年の10月に登場しましたが、1954年当時世界はライカM3の登場で沸き返っていて、アイレス35ⅡにはライカM3を模倣した採光式ブライトフレームを備えた一眼式連動距離計を他社に先駆けて搭載し、世間を驚かせました。同様の高性能ファインダーを搭載したカメラをライバル他社が登場させてきたのは、このカメラの登場から約2年も後になってからで、アイレスの技術力の高さを示すカメラだと言えるでしょう。発売当時の価格は17,800円でした。
1年後の1955年10月、改良型のアイレス35Ⅲ型を発売しました。アイレス35シリーズで最初のレバー巻き上げ式カメラで、同時にセルフコッキング方式が採用され巻き上げと胴時にシャッターがチャージされるため、速写性が大幅に向上しています。さらにアイレス35Ⅲ型は、国産の同種カメラの中で初めてF2クラスの大口径レンズ(コーラル45mmF2)を搭載したことでも、我が国のカメラ史上で輝く存在となりました。シャッターレリーズの位置が一般的なボディ上部に移り、デザインはたいへんスッキリして一見するとライカM3に似た雰囲気を持っています。
その後アイレス35ⅢA型(1956年10月)、アイレス35ⅢL(1957年3月)と続き、1957年5月に登場したのがアイレス35ⅢBです。このカメラはレンズをコーラル45mmF3.2と開放F値を暗くすることで、価格を下げた廉価版と言えます。35ⅢLは31,000円でしたが、この35ⅢBは19,000円でした。シャッターはセイコーシャMXLで、当時世界的に流行したライトバリュー方式に対応しています。
今回ご紹介するアイレス35ⅢCは1957年9月頃販売が開始されました。このカメラはボディの左右が丸みを帯びたデザインとなっていてライカM3の影響が強く感じられ、実際国産カメラの中でもっともライカM3に似ているカメラと言われています。巻き戻し解除レバーやセルフタイマーレバーもライカM3とほぼ同じ位置に設置し、ストラップ取り付け金具もライカを意識した形にしているなど、各部の意匠をできるだけ意図的に似せたことがわかります。セルフタイマーレバーはこの頃セイコーシャッターにセルフタイマーが内蔵されておらず、外付けにせざるを得なかったという事情を逆手に取ったとも言えます。
外観をライカに似せたためか、各部の操作がとてもしやすいカメラです。今回の作例写真の撮影でも、撮影操作は容易でファインダーもよく見えますし、フィルムの巻き上げも軽くこの時代としてはなかなか良くできたカメラであることを実感できました。
当初は4群5枚のコーラル45mmF2.4レンズが備わっていましたが、1958年3月にはコーラル45mmF1.9レンズ付きの上位機が登場しました。前者は21,500円、後者は24,500円でした。この頃がアイレスの一番よい時代だったのかもしれません。
この後1958年10月にはレンズ交換式となったアイレス35V型が登場します。これについては、すでに2013年11月でご紹介しておりますので、そちらをご覧ください。
なお、弊社では以上すべてのカメラの整備が可能です。どうぞ遠慮なくご相談ください。
★フィルムはフジ業務用フィルム