一眼レフカメラのレンズの結像を正立像でみるためには、ペンタダハプリズムかペンタダハミラー(いずれもダハをとって略して呼ばれるのが一般的)を使用するケースがほとんどです。ペンタプリズムを最初に登載したカメラは、東独ツァイス・イコン社のコンタックスS(1949)であることはよく知られています。そしてこのカメラにならって反射ミラーを使ってレンズの像を上方向に反射させて上部のピントグラスに結像させ、そのイメージをペンタプリズムなどを通して観察するというスタイルがごく当たり前になりました。しかし世の中にはおもしろいことを考える人がいるもので、まったく異なる方式で正立像を見られるようにしたカメラがいくつか存在しています。そのうちの一つが今回ご紹介するフォカフレックス(Focaflex)です。
フォカフレックスはフランスを代表するカメラメーカーのひとつ、O.P.L.社が第二次世界大戦後に製造しました。O.P.L.社は1917年創業の光学会社で、戦前は民生用の小型双眼鏡や軍需では戦艦の測距儀、航空カメラなどを製造していました。戦後は35mm判カメラのほかに、顕微鏡、眼底カメラ、胃カメラなどを製造していました。すでに今月の一枚では連動距離計を内蔵したレンズ交換式フォーカルプレーンシャッターカメラ、フォカ・ユニバーサルRCをご紹介しています。
フォカフレックスには初代とオートマチック、Ⅱ型の3種類ありますが、外観はいずれもすっきりとした美しい形状をしています。ほとんどの一眼レフカメラにあるペンタプリズム、あるいはペンタミラーを収納するボディカバー上部の突起物がありません。一見しただけでは一眼レフとは思えません。
このフォカフレックスのファインダー光路は驚くべきものです。レンズからの光路をハーフミラーでボディ下側に反射させ、ボディ底部にいったん空中像を結像させます。それをボディ上部からハーフミラーを通して観察するようになっています。文章ではわかりにくいと思いますが、カメラの元箱にこのファインダー光路図が印刷されています。設計者はよほど自慢したかったのではないかと思います(笑)実際このファインダー構造によって、フォカフレックスの美しい外観を実現することができたのです。
ところでこのハーフミラーは撮影時には下側にたたまれます。一般的な一眼レフの場合上にあがる反射ミラーがファインダー接眼部からの逆入光を遮るようになっていますが、このカメラではそれができないためフィルムが逆入光で感光してしまいます。それを防ぐためシャッターを切ると同時にアイピースシャッターで接眼部に蓋をするようになっているのです。実に良くできた機構ですが、その分複雑であることは否めません。
フォカフレックスのスクリーンにはマット面がなく、レンズのボケをみることはできませんしピント合わせもできません。そのかわり空中像を観察することになりますので、このような複雑な構造であるにもかかわらず、意外とファインダーは明るく見やすいことに驚かされます。実はピント合わせは中央部のスプリットイメージを使って行うことができますので、使用上の問題はありません。
フォカフレックスI型には3群4枚テッサータイプのオプラー・コロール50mmF2.8レンズが固定されていて、レンズ交換はできません。Ⅱ型はレンズ交換式に進歩しました。弊社ではフォカフレックスの分解修理が可能です。どうぞご相談ください。