我が国最初の本格的な35mm判高級カメラは、精機光学研究所(現キヤノン株式会社)が1935年(昭和10年)末に販売を開始したハンザ・キヤノン(Hanza Canon)です。このカメラの成り立ちについては、今月の一枚2013年12月で「セイキキヤノン」をご紹介した際にご説明いたしましたのでご参照ください。このキヤノン最初のカメラには、ごく少数ですがハンザの刻印がない個体が知られていて、区別するためにキヤノン標準型と呼ばれることがあります。今回ご紹介するカメラが、そのキヤノン標準型です。今年はこのキヤノン標準型を2台弊社社長の早田清がシャッタードラムまで分解して整備し、写真撮影が可能な状態に整備いたしました。そのうちの一台がこのカメラです。
製造されてから85年になろうとしているのですが、外装のクロームメッキの輝きはほとんど失われておらず、もちろん整備後は作例写真の通り美しい写真を撮影することができました。精機光学が精魂込めて製造した我が国最初の35m判レンズ交換式フォーカルプレーンシャッター式カメラは、とても高い品質をもっています。そして当時精機光学はレンズを製造できませんでしたから、距離計やファインダーそして撮影レンズは日本光学工業株式会社(現ニコン)に製造を委託したわけですが、それらの光学部品も世界トップクラスの性能と品質を持っていたことがわかります。当時日本光学にはカメラボディを作る技術はなかったので、精機光学との協業は我が国のカメラ産業にとって幸せなことでした。
さてハンザキヤノン用の交換レンズとしては標準レンズとしてニッコール50mmレンズのみが用意され、F値の明るさでF2、F2.8、F3.5、F4.5が知られています。最初に登場したのは50mmF3.5レンズで、今回ご紹介するF4.5レンズはハンザキヤノンの販売が軌道に乗ってから登場したようです。カメラの販売を担当していた近江屋写真用品株式会社の販売政策として、安価なレンズの供給が要請されたのではないかと推測しています。ニッコールの35mm判標準レンズとしては、現在に至るまでもっともF値の暗いレンズですが、今回実写してみて絞り開放からの素晴らしい描写性能に吃驚しました。高解像で周辺まで像の崩れなどが認められません。
弊社ではハンザ・キヤノンやセイキキヤノンなどの歴史的なカメラの整備のご依頼も多く承っておりますが、カメラの状態により整備期間や整備費用が大きく変わるため、個別にお見積もりいたしております。また着手金のお支払いをお願いすることもございますので、あらかじめご了承ください。
★作例写真 フィルムはフジ業務用フィルム100