イギリスのロンドンにあったレイ社(Wray Optical Works)は、19世紀から活動したイギリスの有名レンズメーカーのひとつでした。イギリスの有名なレンズメーカーであったダルメーヤー(Dallmeyer)やロス(Ross)と同様に、レイも一時期カメラを製造したことがあります。そのうちの一つがイギリスのカメラ史上で唯一の35mm判一眼レフカメラとなった、レイフレックスのシリーズです。
第二次世界大戦後の1950年頃に発売されたレイフレックスⅠ型(WrayfrexⅠ)は、独特のデザインが目を引くレンズ交換式の35mm判一眼レフカメラです。シャッター機構は布幕横走り式フォーカルプレーンシャッターで、1/2~1/1000秒のレンジを持ち、シャッターダイアルは一軸不回転になっているのは当時としては先進的でした。ただし不思議なことに、バルブ(B)の位置が1/250秒と1/500秒の間にあります。
このレイフレックスの他に例を見ない特徴は、そのファインダー光学系です。反射ミラーのみで構成されていて、横位置に構えたときには左右逆像です。そしてカメラを90度右か左に回転させて縦位置にすると、なんとファインダー像が180度回転して上下反転してしまうのです。その上ファインダー像がかなり暗くピント合わせは容易ではありません。ファインダーの右下に丸いレンズ部があってそこで少しファインダー像が拡大されるようになっていますが、実用性は乏しいです。
この方式の一眼レフは世界的に他に例をみない点で貴重とは言えますが、実際には撮影にたいへん困難を感じるものです。ところがレイ自身はこのカメラを開発する以前にペンタプリズムによるファインダー正像方式の英国特許を取得していたということなので、どうして実用上問題が多いと言わざるを得ないカメラを作ったのか疑問です。一説にはカメラのデザインを優先したためと言われていて、たしかにレイフレックスのデザインは、他社の一般的な一眼レフとは違う魅力はあります。
一眼レフの反射ミラーはシャッターを切ると同時に跳ね上がり(実はピントグラスも同時に跳ね上がる)、巻き上げを行うとシャッターチャージが行われ、同時に反射ミラーとピントグラスは定位置に下がるようになっています。
フィルム巻き上げは底部にあるキーで行います。巻き上げ操作は小気味よいもので、コマ間もよく揃います。しかしこのため三脚に固定すると巻き上げができなってしまうため、専用の三脚装着用アダプターが用意されていました。フィルム巻き戻しもキー方式です
このⅠ型は撮影フォーマットが24x32mmで、ライカ判より横幅が少し短くなっています。この24x32mmというフォーマットのカメラは、日本では先月ご紹介したミノルタ35やニコンⅠ型など、また他国でもいくつも存在しますが、自動現像機にかけるとプリント製作時などに不具合があるためその後姿を消しました。レイフレックスも次のⅠaで、24x36mmライカ判にフォーマットが直されました。Ⅰ型とⅠa型を区別するにはフィルムカウンターを調べ、数字が時計回りに刻んであり40まであるものがⅠ型、反時計回りに刻んであって36まであるものがⅠa型です。Ⅰ型は約850台、Ⅰa型は約1,600台製造されたそうです。
その後レイフレックスのファインダー光学系にペンタプリズムを採用し、ファインダー像を正像で観察できるように改良したモデルが登場しました。レイフレックスⅡ型です。レイフレックスⅠ型シリーズのファインダーシステムの欠点は解消されましたが、その代わりレイフレックスの上品なデザインは失われ、妙にペンタプリズム部が目立つカメラになってしまいました。カメラの操作性については基本的にレイフレックスⅠ型シリーズと同じですが、巻き戻しは一般的なノブ方式に変わりました。しかしレイフレックスⅡ型の生産台数はわずか300台だそうです。販売に失敗したため非常に稀少なカメラになってしまいました。イギリスのこれも珍品カメラであるウィットネス同様、カメラコレクター垂涎の珍品です。
レイフレックスのレンズマウントは直径41mmピッチ1mmという独特のものです。ボディとレンズの機械的な連携はなく、絞りはプリセット式で操作します。標準レンズはユニライト(Unilite)50mmF2とユニルックス(Unilux)50mmF2.8である。そのほかの交換レンズは35mmから200mmまで4種類用意され、その描写性能はさすがレイ社製でいずれも素晴らしいと言われています。今回ユニライト50mmF2レンズを使用して撮影しましたが、カメラの操作性はともかくとして、撮影結果はたしかに素晴らしいといえるものでした
弊社ではレイフレックスとその交換レンズのメンテナンスが可能で、実績もございます。どうぞ遠慮なくご相談ください。
★フィルムはフジ業務用フィルムISO100