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今月の一枚  2007年7月
Wニッコール25mmF4
W-Nikkor 25mmF4

Wニッコール25mmF4   Wニッコール25mmF4
  作例1 臨海副都心にて1 F8 1/250 フジSP100
   
Wニッコール25mmF4レンズ単体(Sマウント用)。 Wニッコール25mmF4作例2 臨海副都心にて2
F8 1/250 フジSP100
Wニッコール25mmF4レンズ単体(Lマウント用)。   Wニッコール25mmF4作例3 自販機 
F11 1/500 コダックSG400
Wニッコール25mmF4レンズ単体 
手前左 ニッコールW25mmF4白鏡胴 
手前右 ニッコールW25mmF4黒鏡胴 
奥右 トポゴン25mmF4 奥左 SCスコパー25mmF4。
   
Wニッコール25mmF4レンズ、フード、ファインダー、ケース一式。    
Wニッコール25mmF4ファインダー前後から。    
Wニッコール25mmF4ベッサR2Sにレンズとファインダーを装着したところ。    

解説

 このレンズは1953年11月に登場した当時、35mm判カメラ用交換レンズとしてカール・ツァイス・イエナのコンタックス用トポゴン (Topogon)25mmF4に続いて、世界一の広角を誇ったレンズです。その構成はCP.ゲルツのハイパーゴンを発祥とするメニスカスの2群2枚対称 型を発展させた、4群4枚構成のトポゴンタイプです。日本光学では戦前すでにこのハイパーゴンおよびトポゴンタイプのレンズを設計製造していて、その経験 に基づいてこのユニークなレンズを世に送り出したということです。

 トポゴンタイプのレンズは、特にその内側のきわめて薄いメニスカスレンズの研磨が大変に困難ということで、世界的に種類が少ないので す。現在比較的目にすることができるこのタイプのレンズとしては、このニッコール25mmF4のほかに、オリジナルのトポゴン25mmF4、旧ソ連KMZ のオリオン15(Orion-15) 28mm F6.3、そしてマミヤプレス用セコール(Sekor)65mmF6.3くらいではないでしょうか。なおトポゴンには大判カメラ用の巨大なレンズも知られ ています。

 このレンズは、当初は真鍮製クロームメッキで重量約140gほどのコンパクトなレンズとして登場しました。後に軽合金製黒塗装となり ましたが、こちらは重量は半減してたったの約75gしかありません。製造番号は402501番から405000番くらいまであり、403600番以降が黒 鏡胴と言われていますが、実際に市場で見かけるのは白鏡胴が多く、黒塗装はかなり数が少ないようです。またこの中にはライカマウント用が含まれていて、そ の数はたった300本ほどという説もあるのですが、いずれにしても数が少ないレンズであることは間違いありません。そのため中古市場での価格がきわめて高 価なのはやむをえないところです。特にフード、ファインダー、ケースが揃った美品のセットは、30万円以上はするようです。

 さてこのW-Nikkor25mmF4レンズはとてもユニークな構造をしています。まずピントリングがありません。ボディに装着する と内部の距離計連動機構とリンクし、カメラ側のピントダイアルでレンズ内部のヘリコイドを回転するようになっているためです。慣れれば実に軽快にピント調 整ができます。

また絞り操作部もレンズ内部にあり、レンズの開口部に指を差し込んで設定します。これはあまり使いやすいとは言えず、その上絞り操作の際に誤ってレンズ表 面に指を触れてしまいやすく、レンズ表面を傷つけてしまう結果になるのではないかと推測しています。またこのためフィルターを装着すると絞りの操作ができ ず、その都度フィルターをはずすことになります。フィルターは専用フードにシリーズVII型のものを装着することしかできない構造なので、フードを絞り操 作の都度はずすことになるわけです。ただし奥目の構造ですから、フィルターを使用しないのであればフードはなくても困りません。なおこのレンズは絞り開放 でも絞り羽根がかなり見えます。それで正常です。

 フードは非常に薄型のもので、レンズ先端外周のピンにひっかける方式で装着します。このフィルターは前後二分割でき、その間にシリー ズVIIフィルターを挟み込むようになっているわけです。キャップも同様にこのピンにひっかける専用品です。

 このレンズには専用ファインダーが付属していますが、二段になった円筒形で、前部外周と接眼部がクローム仕上げでほかは黒色塗装で す。シュー座もクロームです。パララックスの補正機構はありません。おもしろいことに対物側から見ると、視野枠が糸巻き型にひどく歪曲しています。しかし ファインダーをのぞくと、視野はきちんとまっすぐに見えるようになっています。なおアイポイントが短いため、眼鏡をかけて全視野を見ることは困難です。

 気になる描写性能ですが、開放から驚くほどシャープな画像が得られ、完全対称型トポゴンタイプの特徴として歪曲収差がほとんどありま せん。したがって建物などの撮影に非常に適していて、その上カラーではレンズ構成枚数が少ないこともあって非常なハイコントラストの画像となります。ただ し周辺光量の低下はかなりありますから、それを気にする場合には相当絞る必要があります。

ともかく素晴らしい性能のレンズであることは間違いなく、このレンズを求める人の期待を裏切らないものです。ただし、中古市場に登場するレンズを調べた結 果として、その表面に微細な拭き傷が多数ついているのを目にすることがたいへん多いです。それは先に述べたように、構造上レンズ表面にさわりやすいこと、 さらにこのレンズのガラスの材質が柔らかいためであろうと推測しています。微細な傷がついたレンズで写すと、画面全体にひどいフレアがでたり、光源のまわ りに強いにじみが観察されたり、コントラストが眠い状態となってしまいます。撮影した結果がそういう状態であったら、そのレンズは残念ながら本来の性能で はないのです。非常に高価なレンズでもあるわけですから、購入時には厳密にレンズの状態をチェックしましょう。

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