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今月の一枚  2008年5月
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5
Perkeo I Vasker 75mmF4.5

ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5   ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5
  作例1 浅草寺本堂天井画 F4.5開放 1/25秒 フジ・プロ160S
   
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5折り畳んだ状態。 ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5作例2 浅草寺五重塔
F11 1/300 フジ・プロ160S
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5上部から。   ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5作例3 三社祭前1
F11 1/300 フジ・プロ160S
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5フィルム巻き上げを行った後の表示の状態。   ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5作例4 三社祭前2
F11 1/300 フジ・プロ160S
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5シャッターを切った後の表示の状態。   ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5作例5 もう氷? 
F11 1/300 フジ・プロ160S
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5背面。赤窓には蓋がある。    
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5内部。    
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5Vaskar 75mmF3.5レンズ。    
ペルケオI型 ヴァスカー75mmF4.5整備中の様子。    
     

解説

 1926年に当時のドイツ4大カメラメーカーが合併して生まれた世界最大のカメラメーカーがツァイス・イコン(Zeiss Ikon)社でした。ツァイス・イコン社が設立された当初は、合併前のカメラメーカーの製品の販売を続けていましたが、1929年に初めてオリジナルのカ メラを発売します。それがイコンタ(Ikonta)でした。イコンタは蛇腹折りたたみ式の中判カメラでしたが、前蓋を開けると強力なスプリングの力で迅速 に撮影体制に組み上がります。いわゆるスプリングカメラの完成型としてイコンタは様々なバリエーションが生まれ、大ヒットしてツァイス・イコン社の屋台骨 を支えたと言われています。また同時にイコンタをまねたカメラが世界中に登場することにもなりました。

 現在撮影に使うフィルムの入手が容易なイコンタは、大きく4系統に分かれます。一番小さいのがベスト判(127判)のフィルムを使用するベビーイコンタ です。ブローニー判(120判)のフィルムを使うカメラが3系統あって、6x4.5cmのセミ判の撮影が行えるのがセミイコンタ、6x6cm判の正方形 フォーマットを撮影するのがイコンタシックス、6x9cm判のもっとも大サイズ画面の撮影が可能なのがイコンタ(6x9)です。ブローニー判のイコンタは 上級機として連動距離計を備えたモデルがあり、いずれも「スーパー」の接頭語がつきます。また6x6cm判と6x9cm判のイコンタには、単独距離計が備 わった中級機もあってこれは「メス」の接頭語をつけて区別しています。個々のモデルにはメーカーの型番があり、ドイツなどではこの番号で区別します。日本 の呼び方は向こうでは通じませんから、海外から購入する場合には型番を照合することが必要です。

  さて、すでに2004年10月に日 本でもっとも人気が高いスーパーセミイコンタV型(531)を取り上げていますので、今回は6x6cm判のドレーカイル式連動距離計を備えたスー パーシックスの最終型で単独露出計まで内蔵した最高級機、ユニバーサル・スーパーシックスV型(533/16)を取り上げることにしました。スーパーシッ クスのシリーズは、イコンタの中ではもっともツァイス・イコン社が力をいれたモデルであると思います。なぜなら他のフォーマットでは最後まで実現していな いフィルムの自動巻き止めを戦前のⅡ型からいち早く実現し、レンズもテッサー80mmF2.8というシリーズ一の大口径レンズを搭載しています。さらにセ レン光電池式単独露出計を内蔵したモデルが存在するのもこのシリーズだけなのです。

  スーパーシックスで1935年に登場した最初のモデルであるI型は、連動距離計とファインダーが別々で俗に二つ眼と呼ばれます。まだフィルム巻き止め機構 は備わっておらず、ボディ上部のカウンターを見ながら止めなければなりませんでした。その後登場したⅡ型は背面の赤窓で1を出してから、カウンターダイア ルを下に押しながら1になるまで回してセットすると、その後は自動巻止めとなります。なお11コマしか撮影できません。Ⅲ型はファインダーが二つ眼から一 眼式となりました。戦後1949年に登場したシャッターがX接点付きのコンパーラピッドのモデルがⅣ型、1950年以降シャッターがシンクロコンパーと なったモデルがV型です。戦後型は12コマ撮影できます。なおユニバーサルスーパーシックスのフィルム装填はスタートマーク式です。

  このように力が入ったモデルのためか、手に持つとその作りの良さに感心しますが、その重さにもびっくりします。すべてのモデルが二重露出防止機構とボディ レリーズを備えるなど使い勝手は最良なのに、日本では人気があまりない理由はその重さやサイズなどが関係しているのではないでしょうか。またその大口径の テッサー80mmF2.8レンズの写りが、他のフォーマットのF3.5止まりのテッサーに比べ、絞り開放付近であまり良くないという評判も影響しているよ うに思います。

  しかし実際に撮影してみると、実用的な絞りでは作例写真のように十分な描写力を持っていることがわかりますし、Ⅲ型以降の一眼式ファインダーの備わったモ デルは速写性にも優れています。またフィルム送りが赤窓式ではないので、赤窓からの漏光の心配はありません。折り畳めば薄くなり、重くても携帯には便利で す。

  なお1954年には、まったく新設計の小型軽量化されたスーパーイコンタシックスⅢ型(531/16)が登場します。棒プリズムを併用したドレーカイル式 連動距離計は廃止され、一般的なハーフミラーを使用した連動距離計となり、レンズもテッサー75mmF3.5とややスペックダウンしますが、このレンズも 写りの良さは実にすばらしいものです(さらに廉価版として3群3枚構成のノバー(Novar)付きもあります)。軽くて使いやすいため、私の常用カメラの ひとつです。1956年には露出計を内蔵したスーパーイコンタシックスⅣ型(534/16)も追加されますが、これがツァイス・イコン社のスプリングカメ ラの最終機となりました。なおスーパーイコンタシックスとスーパーシックスは間違えやすいので注意してください。スーパーイコンタシックスのⅢ型とスー パーシックスのⅢ型はまったく別のカメラであるわけです。

  以上、いずれのモデルも弊社で整備可能ですが、ドレーカイル式のものは\44,100(税込み、以下同)、ハーフミラー式のものは\31,500です。 メーターの修理が必要な場合、別料金となる場合があります。撮影結果がすばらしいカメラですから、ぜひ良い状態で撮影に常用したいものです。

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